いきなりですが、東京はいい街です。
なぜなら、面白い企画展がひっきりなしに開催されているからです。
この頻度は世界トップクラスだと思います。地方都市にはない魅力の一つですね。
でも、観に行けないと損した気分になり、心が落ち着かないのもまた事実ですが・・
ということで、今回は先週観に行った2つの面白い展示会について書きたいと思います。
民芸
まずは、六本木21_21デザインサイトで開催中の企画展「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」です。※2019年3月31日まで開催中
プロダクトデザイナーであり、日本民藝館の館長である深澤直人さんがセレクトした展示となっています。
点数も多く、見応えがあります。
民芸とは、ものづくりのカテゴリーの名前です。
その対象物のほとんどが手作りで作られた生活の道具ですから、根本的な衣食住の道具が中心です。もちろん鍋やヤカンなどの調理器具も多く紹介されています。
形状や色使いなど非常に参考になりました。
民芸の良さは、「偶然の個性」にあると思います。
技術的な巧みさはもちろんありますが、
すべての手作りが民芸と称されているわけではありません。
チャネル戦略やマーケティングなどとは一番遠い、作り手の「作ってみようか」という、(時には軽い)自らの意欲のみによって生み出された作品が、いうなれば、「たまたま」個性的だと注目された時、それが「民芸」と呼ばれていると思いました。
要は、他者が名付ける「民芸」という枠を狙ってものづくりをしていないということです。
だからこそ、時として目の醒めるような面白い表現に出会えるのだと思います。
また、民芸は、大量生産に対するカウンター的用語です。当然、社会的にポジティブな意味を含んでいます。この現代において、画一的な大量生産の製品なしでは生きていくことはできないからです。
民芸が今ここまで注目されているのは、多少、マーケティング戦略を感じますが、
「枠にはめられた冷たい個性」に囲まれたこの現代で今求められているのは、「グニャリとして閉じ込められない暖かい個性」なのかもしれません。
しかし、それって、まるで料理そのものですね。
(そういう意味では郷土料理もまさに民芸の一つといえますね。)
シチズン
南青山スパイラルにて先週末まで開催していた「CITIZEN“We Celebrate Time”100周年展」。
建築家田根剛さんの展示「LIGHT is TIME」は、圧巻の美しさでした。
また、シチズンの工場現場の紹介やものづくりの歴史がビデオや展示物で紹介されていました。
当時の手書きで書かれた美しい図面も展示されており、時を刻むという社会的使命感と重責を感じることができました。
その中でも特に衝撃を受けたのは、「工場内での歩行速度の規定があること」。
正確で緻密であることが当然のことで、それは、そこで働く人や空気でさえ、凛としたブレのない環境が必要なのだとわかりました。
それは、必然的に求められた条件なのだと思います。
そして、仕上がった部品からは、計画的で、冷静で、精緻という「必然の個性」を感じ取ることができました。
民芸とシチズンのあいだ
弊社和平フレイズは調理器具を作っています。
生活に最も近い「食の道具」である以上、民芸のような手作りの暖かみは大切です。
しかし、より便利により美味しい料理を多くの方々に作ってもらいたい為、たくさんの商品を均一な品質で生産したいのも事実です。
偶然ではなく必然的に、
冷静な緻密さではなく暖かな個性を表現していくような、
民芸とシチズンのあいだのような企画。
このような企画が、私たちに必要なのかもしれません。
規模の影響力と手馴染みのある暖かさ、この両方を感じながら丁寧に取り組んでいきたいと思います。
※私が企画させてもらった「YOHAKU」シリーズでは、人の暖かみを感じてもらえるようなストーリーを丁寧に作り込んでいます。
しごと
偶然同じ日にこの二つの企画を観て、対称的な企画ながら双方同じ点に感動しました。
「仕事ではなく為事であること」
仕えるための作業ではなく、作り手自らの為す行為として、手や頭を動かしているということです。
そうなれば自然と丁寧になります。
丁寧だからより良いやり方や、より良い成果を考える。
それが結果として、ぐにゃぐにゃな線でも緻密な線でも、同じくらい強烈な個性につながっているのだと思いました。
実際のところ、当社は商業的なアプローチが強い会社です。
取引先様や一般消費者様にご意見を伺い、より安くより大量に商品を生産して販売する。
もちろん品質の担保や機能の差別化をすることで、お客様に選んでいただけるよう、企画者は一生懸命考えていますが、自らの使命や思いを起源として、仕事をできているかというと、残念ながらそうではないのかもしれません。
私自身は会社に仕えているのですが、日々の行為自体は「自ら為すこと」という姿勢を心がけていきたいと思いました。
最後に、好きなことばを紹介します。
「新しい自分が見たいのだ、しごとする 河井寛次郎」
しごとの先にできる自らの姿を見ることが、もしかしたら一番の楽しみなのかもしれません。
さて、記事も書けたので、ひとまず来年何を為すか、雑煮でもすすりながら考えたいと思います。