包丁のプロに聞いてきました【第二回】両刃・片刃について

包丁のプロに聞いてきました 第一回 包丁の素材について

こんにちは、WEB担当のごとうです。

包丁のプロフェッショナルに包丁の事をいろいろ聞いてみようというこの企画、今回は包丁の形について聞いてきました。包丁には刃の付き方が違う二種類の形がある事、皆さんはご存知でしたか?形が違う事によってどういう特徴の違いがあるのか、詳しく教えて頂きました。

藤次郎ナイフギャラリー責任者 小川さん
藤次郎ナイフギャラリー責任者
小川さん

今回も日本有数の燕三条製包丁メーカー、藤次郎株式会社さんのナイフギャラリー責任者小川さんにお話を聞かせていただきました。

家庭で使う包丁は、いわゆる両刃(りょうば)のものがおすすめとの事でしたが、特徴的な片刃(かたは)の包丁についてもいろいろ教えて頂きました。読んだら片刃の包丁が欲しくなるかも!?

包丁には刃の付き方の違う二種類の形があります

――― 前回は素材の特徴を教えて頂きましたが、続いては包丁の形について教えて頂きたいです。包丁には、刃が両側についている「両刃(りょうば)」のものと、刃が片側にのみついている「片刃(かたは)」のものがありますが、これらの違いや、どちらを選ぶのが良いのかなどを教えて頂けますか?

両刃(りょうば)と片刃(かたは)
両刃と片刃の形の違い(断面図)

両刃(りょうば)包丁は切る・刻む作業向き

藤次郎 小川さん(以後:小川さん) まず両刃についてですがこれはいわゆる普通の包丁、三徳包丁などの形です。万能に使える形状で、家庭用で一番初めに選ぶとしたら間違いなくこちらをおすすめします。形の特性としては、食材に対して刃を押すと押した方向に真っ直ぐ切れる為、思った通りに切りやすい。食材を切る・刻むといった作業に向いています。

両刃の包丁(三徳包丁)

――― いろいろな食材に対応できる、とりあえず何でもできるといったイメージなのですね。

小川さん  そうです。後からご説明する片刃は基本的に何かの作業専用の包丁になりますので、まず両刃の包丁を持っていただいて、それから作りたい料理に最適な専用の包丁があれば、それをお求め頂くのが良いと思います。

――― 例えば、魚をさばくとか?

小川さん  そうですね。魚をさばくには片刃の包丁が最適ですが、両刃でも出来ない訳ではないです。片刃の包丁は必要になった時に揃えるのがよいでしょう。

片刃包丁は魚、野菜調理向き

――― それでは次に片刃の包丁について教えていただけますでしょうか。ほとんどの方は両刃の包丁を主に使っているはずなので、あまり馴染みのない方が多いのではないかと思うのですが。

小川さん 片刃は日本発祥の形で、基本的に和食の調理に使われます。魚料理や野菜料理に向いている形になります。

片刃の包丁(柳刃包丁)

――― 和食の調理といえば片刃の包丁ですよね。魚をさばく、刺身を切る、桂剥きをする、これらはみんな片刃の包丁で行う仕事というイメージがあります。

小川さん 形の特性としては刃が片方にしか付いていない為、食材に対して刃を押すと刃が付いていない方向に包丁が逃げていく動きをします。つまり真っすぐ押すと、斜めに切れます。

――― 私スーパーの鮮魚コーナーで働いていた時があって、そこで初めて片刃の出刃包丁を使ったのですが、この特性を知らなくて両刃の包丁と同じように使ったら、真っすぐ切るつもりだった食材が斜めに切れてしまった事があります。

小川さん 知らずに使うとそうなってしまいますね。しかし、この「刃が付いていない方向に包丁が逃げていく」事が片刃の最大の特徴で、動かし方を覚えると食材をキレイに切る事ができます。例えば魚の三枚おろしをする時。包丁を入れて骨に沿って身を削いで行きますが、両刃の包丁でこれをやると刃が骨に向かって真っすぐ進んでしまい、「包丁が骨に当たって止まる」⇒「包丁を戻して切る」という動きを繰り返す形になってしまうので、切断面がギザギザになる事が多いです。一方片刃の包丁は骨から逃げるように動くので、骨に沿ってスッと包丁を進める事が出来る。その為身をキレイに削ぎ取る事が出来ます。

引く、剥く、削ぐ、おろす等の用途に向く片刃包丁
引く、剥く、削ぐ、おろす等の用途に向く片刃包丁

――― そうなのですね!今まで三枚おろしする時に刃の動きまで気にした事ありませんでしたけど、そう言われてみれば、片刃の包丁はスムーズに骨に沿って動かす事ができますね。

小川さん 刃が食材から逃げる方向に動く事で、剥きの作業もとても作業しやすいです。例えば大根の桂剥きをする時でも、刃が常に食材から逃げる方向に動くので、厚みの調整がすごく楽に出来ます。これが両刃の包丁だと常に刃が真っすぐ動くので、厚みの調整をするのが凄く難しいです。

両刃と片刃の違い
両刃と片刃は得意な動作が異なる

――― そうですよね。ペティナイフなどの両刃の包丁で皮剥きすると、厚みの調整って凄く難しいですよね。私がヘタなだけかと思っていましたが、道具の特性のせいでもあったのですね。

魚の頭を落とす、骨を切るには出刃包丁

出刃包丁
出刃包丁

小川さん 薄く剥いたり、削いだりという作業は片刃の方がやりやすいです。それから魚の頭を落とす、骨を切るといった作業をする時には片刃の分厚い包丁、出刃包丁を使って頂くのが安全です。刃の薄い両刃の三徳包丁などを使うと、刃が欠ける事があって危険です。

――― 出刃包丁は強靭ですものね。私も今お話にあった魚の頭を落としたり、頭を割ったり、包丁を鉈みたいに使って中骨を切り分けたりしていましたけど、刃が欠けるという事は殆どありませんでした。

お刺身のスライスには柳刃包丁

柳刃包丁
柳刃包丁

小川さん それからお刺身を切る時に使う柳刃包丁という長い包丁がありますが、お刺身を切る事自体は、いわゆるスライサーや牛刀などの両刃の長い包丁でも可能です。しかし、両刃の包丁で切ると、両刃は刃が両側についている為、微妙な力具合の変化で右側の刃で切れたり左側の刃で切れたりします。そうすると断面に角度が付いて凸凹になってしまいます。

――― 私お刺身は柳刃包丁使うのが当たり前だという先入観がありまして、お刺身を切る時は片刃の包丁しか使ったことがないのですが、両刃で切るとキレイに切るのが難しいのですね。

小川さん 断面が凸凹になるという事は、食材の余計な細胞を破壊しているという事になります。そうするとえぐみとか臭みとかが出てしまいます。更に、食べた時の舌触りも変わってしまって味が落ちます。刺身は断面をスパっと切って鏡の様な状態にしないと美味しくないです。両刃の包丁で断面が凸凹にならない様に切るというのはかなり難しくて、技術が必要です。

――― 確かに切っている時の微妙なブレも許されない訳ですから、これはかなり難しいですね。

小川さん 一方片刃の包丁を使うと、刃が片方にしか付いていない為に多少力加減が変わっても、同じ方向の刃で切っている為角度が付きません。包丁の長さを活かしてスーッと引けばキレイな断面ができます。刺身用の包丁が片刃なのは、理にかなっている訳です。

まずは両刃包丁、レベルアップしたくなったら片刃包丁を

――― 片刃と両刃、形が違うのにはちゃんと理由があるのですね。サッと引く、薄く剥く、削ぐという用途には片刃の包丁が向いている。日常的に食材を切る、刻むという用途には両刃が向いていると。

小川さん そうですね。ただ、家庭で一般的な調理をする上では両刃の包丁の出番が多いです。両刃で魚をさばけない訳ではないですし、刺身を切る事も出来ます。だから家庭で使う包丁は両刃片刃のどちらがいいかと言われたら、これは圧倒的に両刃をおすすめします。 調理のレベルをアップしたい、本格的な道具を使いたいという様に思った際に、片刃の専用包丁を少しずつ揃えていくのが良いのではないでしょうか。

―――  前回のお話と合わせると、ご家庭で使うならステンレス製で両刃の包丁がおすすめという事ですね。ありがとうございます。

次回は包丁のサイズについて小川さんにお聞きします。プロの視点から見たおすすめのサイズを教えて頂きます。乞うご期待!

藤次郎ナイフギャラリーのご紹介

藤次郎ナイフギャラリー
藤次郎ナイフギャラリー

今回お話を伺わせて頂くのにお邪魔した藤次郎ナイフギャラリーは、藤次郎株式会社様の製品に見て触れて楽しむことができる施設です。

製品を実際に手にとってご覧いただけるだけでなく、キッチンスタジオで料理教室に参加したり、メンテナンスルームで包丁の状態を確認したりと、多目的に藤次郎製品と関わっていただくことのできる複合施設となっております。

藤次郎ナイフギャラリー

開館時間:10:00~18:00(工場見学は17:00まで)
定休日:日・祝日
連絡先:0256-93-4195

https://tojiro.net/openfactory/
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